2007.4号

ITMAミュンヘン展を控えての戦略的市場の展望
中国の繊維投資に陰り、為替と原油の動向を注視


 ■… 亥歳は政治・経済、特に金融・為替や株式などが荒れる相場になりやすいといわれてきた。予測として、天候異変で干ばつや洪水で食糧安保を心配する。経済界ではM&Aがさらに活発化する一方、米の景気先行きと日本の所得格差が心配のタネとし、そのキーワードとして「混迷・不安・懸念・危機・恐怖、それとも絶望?」と、少しセンセーショナルなタイトルを掲げたものだ。
 案の定、2月末の中国・上海の株式暴落をきっかけにアジアから欧・米・日と世界を一巡し、すわ株式から金融へ波及するかと心配されたが、今のところ小康を保ち、年初から円は対ドル・ユーロで3〜5円ばかり高くなった程度で治っている。大手企業の大半はバブル期末、あるいは創業以来の高増益をこの3月期決算であげると予測している。6月末の定期株主総会は「増配する(配当総額約11兆円)かわりにM&A対応や研究・設備投資、人事・労務対策等の事案に賛成のほどを」との目論みが見え見えである。心配された円高、株安が竜巻のように去ったこと、利上げの影響もまたデフレに逆行する心配もなくなったことで、昨年のような大型・中型のインサイダ取引、談合といった不祥事はぐっと減ることだろう。まずは安心というところだが、先行き心配のタネは尽きない。

 ■… そのタネとは「夏から秋そして暮れか年初の2回は金利の引き上げが予想される」こと。更に「世界経済、特に米中両国の景気の動向」「天候異変による干ばつ・洪水・冷夏などで穀物相場の急騰の心配」「中東や中央アジア、南米やタイ・フィリピンなどの情勢不安」「テロの再発」「貿易の不均衡」等々、いずれをとっても米国に関連づけられ震源となって世界に波及することはほぼ間違いない。
 日本は今年0.25%引き上げられて公定金利はやっと0.5%となったが、先頃中国は0.25%引き上げて6.39%と引き締めにヤッキとなっている。米は5.25%でほぼピークとされ、インフレもほぼ沈静化している。EUも先頃インフレを抑えるためとして0.25%引き上げて3.75%とした。しかし原油が更に下がるようだと円とユーロは徐々に切り上がっていくだろう。むしろ米議会が民主・共和が逆転し国内の失業率が上昇すれば、たちまち保護派が台頭して、再び中国に切り上げ圧力をかけることが予想される。そのとき日本が保有する8,940億ドル(本年1月末現在)もの米国債は、もろに数兆円が目減りすることとなり、輸出は数量は少々落ち込むだけだが、価格はそれ以上に厳しくなり、鉄鋼や石油化学、半導体などの原材料やIT関連機器は大打撃を受ける。もちろん対中輸出が主力の繊維機械や工作機、建機などは、それでなくても中国側の抑制策によって昨秋から陰りが見え始めていることから、この夏景気と為替変動によっては、大きな節目を迎えることとなる。

 ■… 中国は先の全人代会議が終わった途端、金利の引き上げと併せて「来年から外資優遇措置を廃止して国内企業と同程度の課税(30〜33%)の実施案」を表明した。既存の進出企業は少々引き上げで済みそうだが(これまでは17〜25%だった)これからの企業は現地直接あるいは合弁などの間接であっても、これらの優遇は受けられなくなる。となれば労働集約・低賃金を当て込んで工場進出した繊維や雑貨類などの業界が大きな痛手を受けるといわれている。
 それでなくても、わずかな人民元切り上げさえも繊維・雑貨・家電・デジカメ等の大量消費製品の製造業種は儲けが薄くなったか、赤字に転落したと嘆いていたものだ。それが更に一段の金利引き上げ、海外資本企業の優遇措置撤廃となれば、たとえ海外からの委託生産・現地工場によるアウトソーシング製造であっても、少なからず打撃を受けることになろう。更に全人代で声明された「人民の財産権を守る」方針が今秋の党大会で決定すれば、官権による強制立退きによる暴動等は減少するだろうが、逆に財産権を承認・認可の際の裏金、すなわちワイロ等の汚職は益々横行するだろう(日本における談合や脱税まがいのように)と予想される。

 ■… 中国内の固定資産投資や所得で年間9%強のGDPは、かつての日本の成長期(60年代後半と70年代前半)に匹敵、いやそれ以上の迫力が約12億人の中国にある。それでいてインフレ率は年2%前後に治まり、所得は内陸地域の農業を除いて年4%〜8%の増加となれば、こと経済については安泰といえそうだが、これも北京オリンピックまでという声も聞こえてくる。2010年の上海万博まで大丈夫という日米の一部のエコノミストの意見もあるが、万博はイベント疲れで交通やホテル、公共投資などは増えるだろうが、それ以上に期待されるのが観光である。しかし全国的に見ればオリンピックとは比較にならないほど波及効果は少ないのではと予想されている。
 景気から言えば来年央まで、長くても2年後の春頃までという見方が多い。その理由として―@WTOの加盟によって中国に多大の恩恵をもたらしたが、逆に日米EUや中進諸国の景気動向に影響を受け易くなっている。A輸出の65%は繊維と雑貨であり、輸入の大半が原油と食料それに各種機械と自動車・半導体IT部品である。B輸出のおよそ60%は海外資本による現地工場の製品だが、来年以降はごく一部を除き、既存工場を含めて外資導入の優遇措置を撤廃する。しかし日本側は繊維雑貨類の直接投資は鈍るものの、中国内市場を狙った自動車や建材、工作機械、化学原料・製品などはたいして影響を受けないとしているものの、今の中国経済が独り世界の景気に左右されないハズもない。C人口の60%以上は農民であり、しかも年々老齢化する。失業率は7〜8%、毎年500万人の新たな労働人口が増えるとされる中国は、最低7.5%以上の成長率を維持しなければ、いつまでも過剰労働力を吸収できない。それでもなお4,000〜5,000万人の失業者が常態化していることになり、これが恐らくインドと併せて世界的な貿易戦争勃発の引き金となろう。ついでにいえば、インドの失業率は20%前後といわれ、現在の6%台の成長がいつまで続くのかが、今後日欧米からの投資(中国は投資より物品を売り込むだけだといわれる) を呼込めるかどうかがカギとなろう。


 ■… ところで、目下の世界主要国の短期金利(銀行間貸出しコール3カ月もの)のレートはどのくらいかご承知でしょうか。 列記すると日本0.57%、中国2.86%、米国5.23%、ユーロ3.91%、ロシア10.50%(3月末)となっている。ロシアは日本の実に18倍である。外貨収入の主なものは、衆知ながらガスと原油、それに武器とプラチナなどの貴金属品である。景気が良いので大都市の不動産やリゾートホテルが値上がりし、一方で食品や衣料、自動車や電化製品の大半は輸入に頼っていることから慢性的なインフレとなり、そのためにこれほどの高金利となっているのだ。日本は逆にデフレが怖くて上げたくても政治・経済的に抑制せざるを得ないでいる。
 原油や鉄鋼や穀物などの基礎原料が大幅に上昇しているにもかかわらず、世界的好景気のお陰で「折からの円安も手伝って輸出が伸び続けている」こと、そのうえ「経常収支、いわゆる金利や配当、ロイヤリティなどの受け取りが好調に持続している」ことも大きく寄与している。この景気の背景・要因として、ジェトロ調べによれば「'05年までの10年間で世界の貿易量は約2倍に、そして資本取引量は4倍になっている」という。金利・円安・輸出拡大といった"三種の神器"をもって"神風が吹いた"ことに政治や経済界も人々は感謝しなければならない。
 一方、IMF(国際通貨基金)がこのほど発表したところでは、今後@世界的に金利は上昇A金融市場は不安定となる危険性B「円キャリー取引」の解消の動きが激しくなって円急騰もありうる、と警告していることも注視しておかねばならないだろう。

 ■… ITMAミュンヘン展(9月13〜20日)が近づいている。'99年のパリ展も会場スペースは埋まっていたものの、なぜか活気に乏しいと感じたものだった。つぎの'03年のバーミンガム展は初めての英国での会場(ロンドンとマンチェスタのほぼ中間に位置して不便)しかも日欧の主要大手が出展を辞退したことで、いっきに淋しくなった。その翌年・翌々年の北京、上海展は大盛況で、いかにアジア特に中国が繊維産業の世界最大(綿も合繊も)の生産・供給基地であるかを知らしめたものだ。
 繊維機械の2大生産地域である欧州と日本でも、このところ対中輸出に陰りが見え始めている。現地生産も(KDを含めて)そろそろ限界にきているといわれる。安価な中国製がアセアン諸国やインド、アフリカ、中央アジア、メキシコや南米まで出回っている。国内向けと併せて大量生産によって更にコストを下げ、日欧メーカーを圧迫している。目下のところ高級機種と特殊用途向け機械、それに精度や超高速、制御システム等で中国が追随できないもの、例えばファインデニール向け合繊プラント、超高速または超広幅AJL 、自動ワインダ(エアスプライサ付)そして高級丸・横・経ニット機械などで、特殊ものとして不織布プラント(レイヤーやパンチ機、スパンボンド、人工皮革など)などは、いずれも明年7月の北京オリンピックの後半から開催予定の「ITMアジア展」で、再度注目され需要拡大につなげられるかどうか。その前哨戦としての地位付けが、今年のミラノ展というわけだが、ITMAが"前座"を務めると見られているのも、日欧米の関係者にとって「売らんかなというより、ユーザーに対してデモとネーミングの持続的認知、そして一段の省エネ・自動化の成果を問う」という目的で出展するということになるのではないか。今のところ村田、豊田、津田駒"ご三家"のほか、日本から機械・フレームメーカーは10社程度にとどまるのではないかと見られる。
 肝要なことは、たとえ新機種、改良型最新鋭機、超自動革新機を開発しても、これら機械設備に投資してどれほど生産性、コストダウン、トータルパフォーマンスを得ることができるかが需要のカギを握る。当面は▲省エネ機▲(染色や風綿除去、無注油装置など)無公害・環境に配慮した設備または装置・システム▲メンテナンスフリー(最近の傾向として精度が高く、かつ部品点数が多くなっている)そして単機能化が中印などのユーザーから求められている。果たしてこれらの要請に応えることができるかどうか。明年のITMアジア・上海展での成果につながる課題でもある。

 ■… 最後に、先頃発表された「'06年1〜12月暦年の繊維統計表(生産・輸出・受注)によると、昨年は円安も手伝って'05年に比べ生産は2,096億円(部用品を除く)輸出は2,413億円(別に部用品363億円)となり、対前年比で約20%伸びた。'05年は対前年比で約17%減少したこと、またポリ長プラントの導入抑制装置によって半減した。
 これが昨年後半になって安倍総理が訪中し、かつ北京オリンピックを控えてニット用コーマ糸や編機、プリント染色機などを駆込み導入したことで、スプライス自動ワインダやAJLも連れて再度増加したことも2年ぶりに生産額2,000億円台に載せた理由。
 地域別輸出ではアジアが全体の82%を占め、うち中国に香港を加えると1,345億円にも達し、総輸出額の56%と過半に達する。それだけに中国の市場動向に日欧の繊機メーカーや商社は一喜一憂することになる。日本として、今年も生産2,000億円台を維持できるかどうか(部用品・駆動関連を除く)米中両国の後退があるか、円高に振れるかどうか(米の景気と日の金利引き上げ、人民元の切り上げなどと絡み合って)が成否を分けることになりそう。 ※'06年の統計表についての分析・解説は昨今の情報に加えて、近々にも掲載する予定。


 


 お詫び 筆者・竹島は春先に体調を崩し、そのうえ黄砂でゼンソク気味となり、本編掲載が2カ月の空きとなってしまいました。お詫びとともに、今後ともお引立てをお願い申し上げます。